平成21年度「自然共生型地域づくりの観点に立った世界自然遺産のあり方に関する検討業務」報告書
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2 2 屋久島におけるケーススタディ 2.1 屋久島におけるケーススタディの考え方 平成5年に世界自然遺産に登録された屋久島は、登録後に来島者が急増し、登山利用における屎尿処理の問題など様々な問題が生じ、それに対処してきた経験を有する。また、遺産登録が自然ガイドを含む観光業をはじめ、地域の社会経済の構造に与えた影響も大きい。さらに島民の島や自然に対する意識の変化も指摘されている。 そのため、屋久島の概要を整理した上で、遺産登録が幅広い分野に与えた影響・効果について、特に以下の観点から把握するための指標を抽出し、現地調査及び資料収集業務を行い、それらを踏まえて、遺産を活用した屋久島の自然共生型地域づくりの課題解決に資する検討を行った。検討のための主要な視点は次の通り。 ①島民の自然に関する地理的認識と遺産区域等との関係 ②遺産登録が地域の産業、雇用、経済に与えた影響・効果 ③遺産登録による島民の意識の変化 ④遺産登録による環境保全施策の変化 2.2 屋久島の概要 屋久島の地理及び自然の特徴は、本土から隔絶した大規模な孤島であること、九州一の高標高の山岳を持つこと、屋久杉に代表される巨木が多く存在すること、等に代表される。ブナは存在せず、動物の分布も特異で、シカとサルはそれぞれ数千頭生息するがイノシシ、ウサギ、キツネなどはいない。屋久杉という巨大杉は、日本一の降水量と花崗岩の岩盤の上に乗った薄い土壌が成立の要件だったといわれている。 森林率は9割近く、その大部分は国有林である。したがって江戸時代から続く林業の島でありながら、民間林業はほとんど発達していない。 人口は1万4千人、集落と農地は海岸部の一周県道沿いに散在する。可住地面積率は5%と全国の4分の1。農地は標高100メートルかせいぜい200メートル以下にある。森林のほとんどは国有林が占め民有林はごくわずかである。 自然が特異で傑出していることから島の中腹以上に重複して、国立公園(25000ヘクタール。島の49%)、原生自然環境保全地域(1200ヘクタール)、森林生態系保護地域(15000ヘクタール)、名勝天然記念物(地域指定ではないがおおむね4300ヘクタール程度の範囲)と保護のための規制措置がとられてきた。屋久島の世界遺産登録は93年12月のことである(自然遺産登録面積11000ヘクタール)。 島には明治以来南北を等分して上屋久町、屋久町の2町があったが、2007年の合併で屋久島町1町となった。1万4千人の住民は海岸際、県道沿いの24の集落に住む。最大の集落は北の宮之浦、人口約3200人、ついで東の安房が約1200人である。島の中腹、縄文杉への登山経路でもある小杉谷には国有林伐採が盛んな頃には林業従事者とその家族など500人の集落があり、小中学校まであったが1970年に撤退した。いまは学校

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