15 利用限界を超え、自然等への悪影響が懸念されるに至っていること ● 観光業内での格差が生じていること、観光効果が地域の基礎産業との連関にまで十分及んでいないこと 共生社会の実現にむけて、こうした変化に伴う課題、解決の方向性を列記すれば次のようになる。 ● まず第1に着手すべきは、奥岳地域の利用規制である。登山者数10万人はあまりにも過大であり、し尿問題、踏圧による植生破壊問題に加えて、望ましい森林地域での利用という観点からもすでに限界を超えた状況にある。このため、自然公園法の利用規制地域指定など法的規制発動の準備を進める他、登山の事前登録・許可制や登山の有料化についても議論と準備をする必要がある。遺産後17年を経て、島民感情など規制への客観的熟度は相当程度高まったと考えられる。 ● 奥岳地域の利用規制は、すなわち登山利用の量的抑制を意味する。さらに登山目的以外の年間40万人の屋久島観光客が満足する利用形態を考える必要がある。その場合の基礎となる考え方は、島全体の資源、地域を効率的に使った、利用における山麓等への分散施策、施設整備のための計画策定と実施である。 ● 観光客増は地域経済にとって好ましい効果をもたらしたが、一方でその経済的効果が観光業界のみに止まっていることも事実である。農業者など幅広い産業に観光効果をつなげていくための具体策が必要である。このため町、商工会、農協などを中心に、土産品開発などに具体的な事業に着手することが求められる。こうした開発事業は、単に経済活動としての側面だけでなく、共生型社会の実現の裾野を拡げるとともに幅広い島内コンセンサスを形成していくという観点からも必須の要件である。 ● こうした方向性を実現していく基礎として、島全体の土地利用計画、指針を策定することが必要となる。遺産登録直前にすでに、標高によって3つのゾーンに区分けするなどの提案がなされているところであるが、その後の各種条例等の整備によって、このための素材は相当程度準備されたと考えてもよい。ゾーンの裏付けとなる各種土地利用保全施策(国立公園区域、、保全条例、国有林管理)を今後とも充実させていくことが必要である。 ● 規制的手法の強化充実に加えて、鹿児島県が最近主唱している電気自動車導入のように(図表43)、原生的自然を最先端技術によって守る、という発想も重要である。
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