136 (今後の研究課題) 本調査は、屋久島及び奄美の世界遺産を巡る状況を分析して、自然共生型社会への手がかりを探ろうとするものであった。自然に限らず社会経済条件など幅広いデータを並べ、概観することによってテーマの本質に迫ろうとしたものである。今回の調査によって一定程度の成果は得られたが、同時に、次のような新たに検討を進めるべき課題も明らかになった。 それらの課題を以下に列記する。 ・ 世界遺産あるいは自然共生型社会について、概念を確立した上で作業に入るべきこと ・ 確立する概念は、作業仮説上の、あるいは前提としての概念であり、遺産条約等既存の枠組や国立公園制度など既存のフレームには拘らずに設定されるべきこと ・ 具体的作業としては、まず広汎な定量的データを収集し、その中から主たるデータを抽出して分析するなどのプロセスで行うこと。その場合の収集、抽出データの枠組については、今回の調査で示した 定量的データを基礎とすべきであること ・ 一方、ヒアリングや調査者が現場で受けた印象などはじつは分析にとって重要なポイントであり、そうした視点で分析その他の作業を進めること ・ 屋久島と奄美といった具体的箇所を対象とすることによって、こうした総合的課題の解決への道筋が初めて明らかになる。今回の調査成果を踏まえて、地域の人間活動と自然(保護)との関係分析をより深化させていく必要があること ・ このため、今回設定した指標間の構造的関係を、土地利用など「空間あるいは地域」や歴史的経緯などの「時間あるいは歴史」等、予めフレームを設定するなどして分析を深めていくこと ・ もう1つの視点として、現在奄美で検討が進められている新しい国立公園の議論、「生態型」「環境文化型」の国立公園像を手がかりとした分析を進めること等がある ・ この場合、知床、白神など他の自然遺産地域、他国立公園などとの比較考量も必要に応じておこなうこと ・ さらに、生物多様性という重要な概念であるが一般的には難解な概念の普及や、すでに大変革すべき時期にあると思われる国立公園制度について、屋久島奄美の両地域は日本の中でシンボル的位置にある。これらの地域での具体的経験や議論を踏まえた検討を進めるべきだと考えられること
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