平成21年度「自然共生型地域づくりの観点に立った世界自然遺産のあり方に関する検討業務」報告書
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135 奄美の自然の特徴はその濃密な生態系にあり、両生類など環境変化に脆弱な種も多いことから、これら地域においては繊細な配慮が当然必要である。一方、いわゆる森林地域は相対的に強い自然と考えられる側面もあり、妥当な配慮があれば相当程度の利用は可能であることを前提とする また、奄美の特徴である低山帯、照葉樹林は、日本社会にとっていわば新しい風景であり、これまでは平凡で魅力のない景観と捉えられてきた。そのため花が咲き、蝶が群がる樹冠をやや高い視点から見下ろすなどの工夫が意図的になされる必要がある。仮に樹上木道などが整備され、専門的ガイドとセットで利用がなされるならば、新しい風景を獲得することになる。さらに魅力ある拠点づくり、ハブ対策など利用者の安全性を担保することにもつながるであろう 屋久島の例を見れば明白であるが、観光はともすれば観光業界のみに利益配分が特化しがちであり、農林漁業など地場の産業へ波及が及ばないことがしばしば起きる。本来の観光は総合産業であって影響は広く及ぶはずであるのだから、奄美においては遺産登録がなされる前に1次、1.5次産品などを観光と積極的に結びつける準備しておくことが求められる 奄美においても自然保護上の最大の課題、懸念は、保護のための規制と開発など経済的行為との調整問題である。これらは本来的に対立して、一方が他方を排除すると考えるべきではなく、むしろ大島なら大島における土地利用の大方針を国立公園指定など保護の議論とともに議論し、社会的合意をつくり上げていく機会と考えることが重要である。実際は島の何割かを保護地域にしたとしても、公共事業など開発、インフラ整備の制約になる可能性は少ないし、毎回起こる開発と保護の議論の混乱よりははるかに合理的であると考えられる この場合、保護及び開発サイドの両者において、より賢明かつ柔軟な発想が求められる。例えば大島において5割強を占めるリュウキュウマツ、シイカシ萌芽林の扱いは、原生林へ向かうもの、里山として今の状態で維持すべきもの、伐採も含めて利用に供すべきもの、に3区分し取り扱うなどである 奄美において検討されている国立公園の考え方は、屋久島における国立公園、地域づくりにとっても新たな視点を加味することにつながる。とりわけ環境文化型国立公園の理念は、単に文化的景観の公園内部化するだけでなく、自然と人間の新たな関係のモデル型をつくり上げるという意味で示唆するところは大きい

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