平成21年度「自然共生型地域づくりの観点に立った世界自然遺産のあり方に関する検討業務」報告書
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133 植生破壊、混雑による利用環境の悪化などが指摘され、大きく報道されているところである。 これまで環境省や林野庁、鹿児島県、地元町などが、登山道の整備、縄文杉の囲いや展望デッキの整備、カウンターによる登山者数の把握、マイカー規制、山小屋の整備などが順次行われてきたが、登山者の急増には追いついていないのが現状である。現在、環境省を中心として入山規制など利用規制について検討するとともに、地元とも調整を開始している。 また、これらの諸問題に対応するため、平成21年から環境省及び林野庁を共同事務局として設置された屋久島世界遺産科学委員会において、科学的データを収集整理し、各種保全管理方策についても検討を始めている。 琉球諸島は、遺産登録の核心部と考えられるアマミノクロウサギが生息する奄美大島、徳之島の森林地域やヤンバルクイナが生息する沖縄本島北部のやんばる地域について保護上の担保措置が未だとられていない現状がある。現在、環境省において奄美及びやんばる地域について、国立公園など保護地域指定のための準備作業中であり、順調に進めば数年程度を目途に国立公園指定と世界遺産登録がなされる可能性がある。 しかしながら、 ①奄美大島については、中央森林地域は民有林が大部分を占めて土地所有者等との権利調整の必要があること、 ②やんばる地域については米軍のゲリラ訓練場が核心部の半ばを占めて基地返還時期等との関連があること 等が、保護地区指定の懸念材料となっている。 したがってやや先行している奄美地域の国立公園指定を先発させるなどの準備が段階的に進められているところである。 またこれらの議論と併行して、環境省等によってこれまでなされてきた各種委員会や講演会、鹿児島大学による奄美公開セミナー、その他を通じ、両地区とも住民その他関係者の理解が徐々に深まりつつある。 世界遺産登録を大きなエポックとして考えた場合、屋久島の遺産登録後の推移、変化は、これから登録を目指す奄美にとって大きな指標となるであろう。その意味するところは経済的変化、活性化が第1であるが、さらに、一部地域への過剰利用問題と自然破壊について予防的対策をあらかじめ講じておくという意味においてもである。屋久島の縄文杉地域過剰登山問題は、奄美大島のアマミノクロウサギ生息域(大島中央部金作原林道周辺)へのナイトツアーなどがすでに起きつつあることを考えれば、遺産登録時期が迫ってくるに従いより加速すると考えておく必要がある。 しかし屋久島と奄美群島では異なる対応を取らざるを得ない面もある。何と言っても独立したひとつの島である屋久島と、5つ(属島を入れるとそれ以上だが)の島が離れて存在し、性格も違う島の集合体、群島である奄美はその点だけでも大きく違う。人口規模は12万人超の奄美、1万4千人の屋久島と規模も違い、琉球及び本土との関係も歴史的に異なってきた。

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