平成21年度「自然共生型地域づくりの観点に立った世界自然遺産のあり方に関する検討業務」報告書
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9 この2つをいかに破綻なくつないでいくかが共生論立論の基礎である。自然系指標は、植生、地形などであり、文化財という理解の仕方でも表される。人間系あるいは社会経済系指標は、基礎としての経済関係(所得や産業)や、その具体的かつ歴史的表現である土地利用、観光形態として表れる。自然保護制度(地域指定)は、充分ではないにしろ両者間をつなぐために考え出された知恵の1つである。 共生論とはすなわち自然と人間の関係のバランス論である。よきバランスが成立するためには、まず自然のフレーム、容量を前提として人間活動の総量が考慮される必要があろう。この場合、生態学的自然理解を基礎としつつ自然の歴史的理解の結果である土地利用や地域の風景意識を加味していくことが重要となる。なぜなら、そもそも異なる価値を調整、操作する主体はあくまで人間側であり、バランスの実現可能性を高めるための原型、工夫は過去の蓄積に学ぶことから出発することがもっとも現実的手法であるからである。 こうしたバランス、調整の必要性は、屋久島のみならず大都市においても本質的には同じである。もちろん奄美においても同様である。 (補)指標の抽出の考え方と抽出指標の概要 (1)を踏まえると、屋久島の世界遺産登録が幅広い分野に与えた影響・効果について、把握するための指標として以下が抽出される。抽出に当たっては、数十の定量的統計等を比較し、テーマからより根本的と考えられるものを選択した。また、奄美群島との比較においてより有意と考えられるものとした。 ・人口推移 人口は総合指標として地域の実相を表す。とくに地方地域においては、その減少の程度が地域の状況、傾向を示している ・降水量及び標高 屋久島の特徴ある自然は南海の独立孤島という地理上の位置、花崗岩の島という地質上の要因など種々の条件によって成立しているが、とりわけ降水量、山岳部の高標高(九州最高)は、植生等生物に大きな影響をもたらしてきた ・土地利用面積 自然に対する人為の端的な表れが土地利用である。土地利用は、例えば平地率等地形条件上の制約の反映でもある ・植生、森林率及び国有林比率 人口は人為サイドの総合指標であるが、植生は自然サイドの総合指標である。また、森林率は人間活動の基本的制約条件である。国有林率は屋久島と奄美で決定的に異なり、今後の自然保護政策を考えるにあたって大きな影響を持つと考えられる ・保護地域面積 屋久島は国立公園、世界遺産等、自然保護については奄美群島に比べて先進的であり、それが保護地域設定においても表れている ・産業別就業者比率 地域の経済社会の状況を端的に表すとともに、3次産業就業比率は離島においても

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