固有種を保全するためには、固有種そのものの個体数を常に把握する必要があります。気づいた時には個体数が減少していたということでは、固有種の保全は⾏えません。個体数が減少したことにいち早く気づけば、その原因の究明と対策にすぐに取り掛かれます。定期的に固有種の個体数を確認することは、まさに“転ばぬ先の杖”です。 また、固有種の存続を脅かすものとして、⼈間による開発⾏為、気候変動、オーバーユース、外来種の影響が挙げられます。とくに、外来種による脅威は、⼈間による外来種の持ち込みを完全にストップしても、外来種そのものは島内で増殖し、外来種による⽣態系の改変と固有種への負の影響(個体数の減少)が拡⼤していくと考えられます。これを防ぐためには、我々⼈間が積極的に外来種を駆除する必要があります。そして、外来種を駆除するにおいても、外来種のモニタリングは⾮常に重要な意味を持ちます。つまり、「外来種の個体数や分布の状況を把握し、それをもとに計画的な駆除を実施し、駆除後の外来種の個体数や分布の状況を把握する」というプロセスを繰り返すことで、駆除の効果(外来種の減少だけでなく、それにともなう固有種の回復も含む)を検証しつつ、より効果的な駆逐⽅法の選択・改良を⾏うことができます。 植物は、他の⽣物群(たとえば、哺乳類や⿃類など)に⽐べて、関⼼を集めにくい存在かもしれません。しかし、⽣育場所を変えられない植物は、周辺の環境が変わればその影響を受けます。また、外来植物の繁茂は、在来植物の⽣育場所を奪うことであり、その存続が危ぶまれることになります。つまり、植物も他の⽣物群と同様に、固有種の存続は常にリスクを抱えており、我々が保全を⾏っていく必要があります。 外来種を含む奄美⼤島の⽣物をモニタリングするにあたって、政府や⼤学、地⽅⾃治体などの公的機関のみでそれを⾏うことは難しく、地域で活動されている団体や住⺠の皆様に積極的に関わっていただくこと、また、主体的にモニタリングを実施していただくことが持続的なモニタリングの実施とその効果の確保に必要不可⽋です。そのため、地域の皆様⽅のモニタリングへのご理解とご参加・ご参画は、今回の世界⾃然遺産登録にあたり、最も重要な課題の⼀つに位置付けられています。このマニュアルは、その⼀環として、奄美⼤島で外来植物のモニタリング調査を⾏う場合の具体的な⽅法を提案するものです。 本マニュアルでは、奄美⼤島に⽣育するすべての植物を対象にモニタリング調査の⼿順を説明します。まず、調査⽅法を説明させていただき、次に、多くの植物の中から外来種を切り離して識別できるよう、奄美⼤島でみられる外来種の⾒分け⽅を説明します。最後に、調査で得られたデータを報告する⽅法について説明します。固有種の存続や外来種の分布把握は奄美⼤島全体で広域に実施することが重要であり、これを⾏うためには、多くの⽅のご協⼒が必要です。このマニュアルによって、多くの皆様に植物相モニタリング調査の趣旨をご理解いただき、奄美⼤島の⾃然環境をよりよく維持するための調査に参加していただけることを願っています。 1 はじめに 2021年7⽉奄美⼤島を含む4島が世界⾃然遺産に登録されました。登録の理由は、これらの4島に、普遍的価値を持つ固有な⽣物種(固有種)が存在することです。世界に⼆つとない奄美⼤島の⽣物相を守っていく上で、今後、地域の⽅々、地⽅⾃治体、⽇本政府は相互に連携し、保全活動に努めていく必要があります。
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