2021年7月奄美大島を含む4島が世界自然遺産に登録されました。登録の理由は、これらの4島に、普遍的価値を持つ固有な生物種(固有種)が存在することです。世界に二つとない奄美大島の生物相を保全する上で、今後、地域の方々、地方自治体、日本政府は相互に連携し、保全活動に努めていく必要があります。固有種を保全する上で、人間による開発行為、気候変動、オーバーユース、外来種の影響が懸念されています。今後、これらの脅威に対策を講じていく必要があります。とくに、これらの脅威の中で、外来種の影響は他の脅威とは少し性質が異なります。外来種による脅威は、他の脅威と同様に人間が引き起こしているものですが、一方で、人間による外来種の持ち込みを完全にストップしても、外来種は島内で増殖し、その影響は拡大していきます。結果として、外来種による生態系の改変と固有種への負の影響は、奄美大島の固有種の存続に甚大な影響(個体数の著しい減少)を引き起こします。これを防ぐためには、我々人間が積極的に駆除を実施する必要があります。しかし、外来種の駆除は容易ではなく、多大な労力を要する作業を継続して行わなければなりなせん。外来種の駆除では、単にそれを行うだけではなく、同時に、外来種のモニタリングを行う必要があります。つまり、「外来種の個体数や分布の状況を把握し、それをもとに計画的な駆除を実施し、駆除後の外来種の個体数や分布の状況を把握する」というプロセスを繰り返します。こうすることで、駆除の効果(外来種の減少だけでなく、それにともなう固有種の回復も含む)を検証しつつ、外来種の駆逐の状況を理解することができるようになります。外来種の中で、外来植物は他の生物群(たとえば、外来動物など)に比べて、関心を集めにくい存在かもしれません。しかし、風に乗って遠くに種子を散布し、また、鳥によって広域的に種子が散布されるなど、その増殖能力・拡散能力は他の生物群に比べてはるかに高いです。侵入した外来植物を早期に発見し駆除することが望ましいですが、一度侵入を許した外来植物でも、その生態(生態系への影響や増殖・拡散能力の評価など)の理解を深めつつ、駆除を進め、生態系への影響を低減させる努力が必要です。外来種を含む奄美大島の生物のモニタリングを行うにあたって、政府や大学、地方自治体などの公的機関のみでそれを行うことは難しく、地域で活動されている団体や住民の皆様に積極的に関わっていただくこと、また、主体的にモニタリングを実施していただくことが持続的なモニタリングの実施とその効果の確保に必要不可欠です。そのため、地域の皆様方のモニタリングへのご理解とご参加・ご参画は、今回の世界自然遺産登録にあたり、最も重要な課題の一つに位置付けられています。このマニュアルは、その一環として、奄美大島で外来植物のモニタリング調査を行う場合の具体的な方法を提案するものです。本マニュアルでは、まず、調査方法を説明させていただき、次に、実際の外来種の見分け方を説明します。最後に、調査で得られたデータを報告する方法について説明します。様々な項目が求められるモニタリング調査の中でも、外来植物のモニタリング調査では、対象植物の広域的な動態を把握することが駆除に関わる重要な情報となり、これを行うためには、多くの方のご協力が必要です。このマニュアルによって、多くの皆様に外来植物モニタリング調査の趣旨をご理解いただき、奄美大島の自然環境をよりよく維持するための調査に参加していただけることを願っています。2はじめに
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